ITにお金を使うのは、もうおやめなさい

 edtechさんに、昨年論争を引き起こしたニコラス・G・カーの「Does IT Matter?」が本になったことを教えられて早速購入し読了した。

『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』 ニコラス・G・カー著 ランダムハウス講談社
(原書名 Does IT Matter? Information Technology and the Corrosion of Competitive Advantage)


 目次は以下の通り。IT関連企業に勤める方には必読の書である。去年ネット上で公開した論文と比較して、幾分か控えめで、より実証的に書かれていた。
 ITの定義を行い、経営や技術の様々な論文を元にして丁寧に論じており、大変読みやすかった。各章のサマリーを以下に載せる。

第一章 テクノロジーの変容 新しいビジネス・インフラの登場

 ITの潜在能力を完全に引き出すには、ITを「普通の技術」にしなければならない。「ITを差別化する要因」として、ITに戦略的な価値を与えたままではいけないのだ。

第二章 路線を敷く インフラ技術の本質と進化

 重要なのは、インフラ技術が誰にでも簡単に安く手に入るようになるにつれて、ある会社をその他大勢から際立たせる能力、即ち戦略優位を生む力が否応なしに低下するということである。

第三章 完璧なまでのコモディティ コンピュータ・ハードウェアとソフトウェアの宿命

 ITは(これまでの技術のように)ある有力な設計やアーキテクチャに落ち着く技術ではない。それどころか、新しい技術のアーキテクチャを生み出しては壊すことを繰り返してきた。そして今なお、新しいアーキテクチャを作り続けている。
 しかし、どんなに新しい技術でも、情報技術の根幹をなすコモディティ性を変えるまでには至らない。そして、新しい技術によって。ITがビジネスにおいてずでにコモディティとして機能しているという現実が変わるということもないのだ。

第四章 優位性の消滅 ビジネスにおけるITの役割と変化

 収益性に関する実績を見れば、企業はおおむね、競争で対等な立場に立つために必要なIT投資を実施しているものと言える。しかし、競争優位を獲得できていないことがうかがえる。
 将来の成功を保証するのは、情報技術を「独創的」に使うことではない。むしろ重要なのは、情報技術を使いこなすことである。

第五章 企業戦略の崩壊  ITインフラが既存の競争力を破壊する

 ITインフラの普及が進めば、事業プロセスと企業組織の差を縮める方向で圧力が生じる。深く考えもせずに、他社との提携や業務委託に走ったり、業務の専門化を進めたりしようとする会社も出てくるかもしれない。しかし、結果として、競争優位を獲得する機会が失われるので、長期にわたって収益性に悪影響が及ぶことになる。

第六章 「金食い虫」を手なずける IT投資とマネジマントをめぐる緊急の課題

 ほとんどの会社は、ITを「戦略資産」ではなく「コモディティ」と考えることで最も良い結果を得られるだろう。大多数の企業にとって、ITに積極的に優位性を求めることは、もはや「成功の鍵」ではなくなった。むしろ、ITの導入によるコストとリスクを、厳密に管理することの方が、はるかに重要になったのだ。

第七章 夢からさめて 技術の変化の正しい読み方

 ITは本当にビジネスを変えたのだろうか。ITは今後、ビジネスを変える真の力を持つのだろうか。実際のところ、私たちはこうした問いに対して、まだ確信をもって答えることができない。今の私たちにできるのは、「分かっていること」と「分からないこと」を区別したうえで、好奇心と批判精神と謙虚さを持って将来を見据えることだ。