ウェブ人間論

今年最初に読んだ本で、去年の販売時よりずっと読みたくて仕方がない本であったが、ようやく読むことが出来たのだが、総じてこれまで書いた記事とシンクロする部分が多かったので、その部分を踏まえて書いてみる。

ウェブ人間論 (新潮新書)

ウェブ人間論 (新潮新書)

梅田:将棋の羽生善治さんの「高速道路」論というのがあって、「ITとネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では、大渋滞が起きています」と彼は言うわけです。僕はその大渋滞を抜け出せるかどうかのカギの一つに、構造化能力というのがあると思っています。

構造化能力というのは、情報リテラシーの一つで、以下の2つの側面を持っていると思います。

  • 情報検索エンジンなどの情報整理エージェントにおける情報を構造化する能力
  • 個人の情報検索エンジンを駆使して必要とする情報を構造化する能力

いずれも情報化社会においては無くてはならない能力だと思います。
【参考】情報リテラシー教育の問題(β.)

平野:グーグルは、自らのミッションを「世界中の情報を組織化(オーガナイズ)し、それをあまねく誰からでもアクセスできるようにすること」と定義している。(P25)
梅田:グーグルは、検索エンジンの意味を体現して、情報の層(レイヤー)を全部押さえ、整理し、整理対象となる情報をもっともっと広範囲にしていく、ということをやり続ける、そういう意志を持った会社です。(P26-27)

グーグルは、検索対象としてのコンテンツを地図(Google Earth, Google Local)や動画(Google Video, YouTune)など水平方向に広げていき、成功したと思います。ユーザの知的欲求は飽きたらず、次は、垂直方向としてのDeepなコンテンツを求めてきているように思います。その1つの例としてWikiSeekがあるとおもいます。WikiSeekは、比較的情報粒度の細かいより専門的なコンテンツの多いWikiが検索対象となっています。これからは、WikiSeekのような検索対象を絞ったニッチな検索エンジンギークやオタクの好む情報に特化した検索エンジンが注目されていくと思います。
【参考】Web2.0の罠(その2)(β.)
★WikiSeek
★Wikipediaの新しい検索エンジンWikiSeek

平野:利便性というのは、基本的には一人の人間が、たった一つの身体に物理的に拘束されている条件からの解放なんだと思うんです。(p27)

この一節は簡潔なセンテンスなんですが、大変重みのある言葉だと思いました。利便性というとどうしてもCanという側面が強調されがちなんですが、Freeという側面も考慮しなくてはいけないと思いました。

梅田:たとえば2.0の特徴のひとつとして「参加型」ということがよく言われます。ただ、1.0の頃からホームページを作ることはできたわけで、昔から「参加型」ではあるんです。でもグーグル以前は、世界の片隅でホームページで何か書いても、ほとんど誰にも届かなかった。でも今は、検索エンジンなどを介して、同じ関心を持つことがつながることができるようになったわけです。(p29)
平野:ネット時代になって、みんな情報の価値をこれまで以上に実感し始めたんじゃないかと思うんです。ネットの言説空間の中では、多くの場合、ある人が、リアルな世界で何をしているかという社会的な属性が厳密に特定出来ませんから、発信され、交換される情報の質や量によって、その存在価値が決定されている。(p30)
梅田:世界の結び目を、自動的に生成する機会なんですね。検索エンジンは。リアルタイムでどんどん更新されているすべての情報を、常時取り込んで整理している…。(p31)

ここには、グーグルとユーザのWin-Win関係が巧く築かれていると思います。
【グーグルのWin】

  • 検索すれば検索するほど、情報の関心度・重要度の情報といったメタ情報をグーグルに与え、情報ファインダビリティの向上に寄与している

【ユーザのWin】

  • 情報発信コンテンツに対する検索エンジンからのリンクによって自己存在価値を高める

グーグルのビジネスモデルの凄いところは、絶えずフィードバックによって情報自体が自己組織化を行うことが出来るシステムだと思いました。

平野:インターネットによってグローバリゼーションが進むとよく言われますが、一面では逆に一人の人間のナショナリティは強化される方向に向かうのではないかと思ったことがあるんです。(p32)

この一説はパラドックス的で面白いと思いました。情報大航海するにつれて、原点が見えてくるという感覚でしょう。

梅田:むしろブログの本当の意味は、何かを語る、何かを伝える、ということ以上に、もう一つあるのではないかと感じています。ブログを書くことで、知の創出がなされたこと以上に、自分が成長出来たという実感があります。(p39)

私自身の経験から言っても、本当にそうだと思います。ブログは、ネット上の知の共創であると同時に、自分の成長のログですから、大変価値のあるものだと思います。

平野:ナイーブな、一種の功利主義的な人間観は、若い世代の、とりわけエリート層にはますます広まりつつあるんでしょう。・・・「有益性」が前提とされている友人関係は、個人的にはちょっとカンベンしてほしい気がしますね。(p53)

この人間観は、情報化社会がもたらした一つの弊害のように思います。情報に過度に依存した現代では、情報を持っている人間に最大の価値を置くために、本来人間が持つべき、ボランティアとかそういった感覚が萎えてしまっているように感じます。

梅田:個として、そういう負の部分をやり過ごす強さとか、見ないようにするリテラシーを、これからのネット社会では身につけなくてはいけないと思うんです。(p109)

情報リテラシーにも、ポジティブなものと、ネガティブなものがあり、これは後者だと思います。自分を守るためのスキルとしてこれからの情報化社会では有った方がよいものだと思いました。

以上、私が印象に残ったことを沢山引用しましたが、この他にも色々と考えさせられた部分が沢山ありました。皆さんにも一読を強くお勧め致します。

★これは受けた!(My Life Between Silicon Valley and Japan)